暴力

 執筆日:2025年5月3日―2025年5月6日


 暗い話をします。


 まるで伏線を張るような、俗にいうフラグを立てるようなことはやめよう。

 『全部死ぬ前に神様みたいな誰かが見せてくれている穏やかで最高の幻覚』を見ているんじゃないかと思えるくらい平和で穏やかな時期があった(下記記事)。

 https://irimiyayotsuri-null.amebaownd.com/posts/43774575?categoryIds=4619517

 2023年の時点でそんな話をしていたがお前、一年後にもう一度どうにもならないことになるぞ。フラグを立てるのはやめろ。

 最高の幻覚は幻覚ではおそらくなかったが、伏線ではあったと思う。お前が何も片づけない限り散らかった部屋は散らかったままで、どこかに出掛けようとそれが変わることはない。ということを知らなかった。


 暗い話をします。


 私はてっきりすべてが完結したとばっかり思っていたが、全然まだ何も終わっていなかった。時折ゆらゆらするくらいのことはあったがそれもいずれ消えてなくなるんだろうなと思っていた。が、思っていたよりも頭の中にあるセーフティが緩くて暴発したのが昨年の4月。お前は何もなくなったと思っているのかもしれないけれど、お前は落とし穴の柔い蓋の上で遊んでいるだけの子どもだよ。

 落とし穴に蓋をすることには成功したが、それでは穴は永遠に埋まらないということをあんまりよくわかっていなかった。蓋がまた取れたとき、私はこの穴を埋める作業を生きている間ずっと続けなければいけないことをようやく知って、ぞっとした。

 これが一生つきまとうんだと知った時、ぞっとしませんか。穴を埋める作業に限らず、親でも子どもでもなくしたもののことでもなんでも。

 しばらく穴を見つめるだけ見つめて、重機を借りに行けば何とかなるという話をどこかで学んだことを思い出した。初めて重機を借りた。

 重機を借りたら色々便利になることを知ってはいたが、その時まで私は重機を借りたことがなかった。あの穏やかな時間があったから今回は借りるという選択をできたが、それがなかったらその選択はできなかった。それを考えるとあの穏やかな幻覚は意味があったと思う。

 重機を借りても、その重機が近くに立っているぼろいアパートを壊さないか不安だった。重機を借りても操縦するのは結局自分だった。要するに、自分でそこに行ったくせに(重機を借りたくせに、重機を使うことを)ビビっていた。これが多分『響動めき』という小説を書いて出したころ。自分がまともな証左としてあの小説を書いたつもりだったけど、今見返すと狼狽しているね。

 いざ重機を動かすと穴の周りは実は泥でできていて重機は動かなくなった。具体的にいえば、自分の中で言っていいことと誰にも言ってはいけないことのラインが全く見えていなくて、言ってはいけないほうを人に話してそのあとに何でそれを言ったんだと頭の中で拷問を受けた。重機を泥道に入れるのならまずは重機が通れる場所を確保しよう。動かなくなるので。それが昨年、小説を非公開にしたときくらいのこと。

 完結したと思ったときにその穴を埋めていれば、手順を間違えることもたぶんなかった。でもそのときは蓋をして穴が埋まったと思っていた。よその家にある重機を見て、重機が必要なくらい大変な工事をしなきゃいけない人もいるんだなとは知っていたけど、自分のしょうもない穴を埋めるにも重機がいることを全然知らなかった。

 泥の中でおぼれそうなブルドーザーだかショベルカーを引っ張り出すのにえらく時間がかかった。正直そのころの記憶がない。当時の日記を見返すと暗かった。

 今は穴の話しかしていないが、穴を埋めるだけに執心するわけにもいかず、街を成り立たせるためにはあっちで家を建てたり別のあっちで電柱を立てたりしないといけない。具体的にいえば、働いたり勉強も同時にしなければいけないということ。同時期に建てた家はなんとか完成したがすごくおかしな形をしていたし、電柱はなんか曲がっていた。

 インフラ整備の予定も立て続けに入っていた。インフラ整備を担当していた責任者が途中で水道管を爆破しようと言いだしたし、実際に水道管を爆破する計画を立ててホームセンターに行って爆弾を作る準備をしていた。未遂に終わったが、未遂の理由はスイッチの作り方がよくわかっていなかったとか、そんな理由だった。これは具体的にいえばちょっと生々しすぎるので伏せる。水道管も爆破も比喩です。

 その後、自分で作ったお手製の重機でどうにかしようとしていたが、如何せんその重機は出来が悪くてわけのわからないところの泥をすくってわけのわからないところに泥を運んでいた。

 穴は埋まらなかった。

 埋めようとはしたがどうにもならなかった。

 幸い、今住んでいる場所から穴はあんまり見えないが目を凝らすと見える。穴の周りにコーンくらいは立てて落ちてはいけないぞとしているがそれじゃどうにもならない。私はこの穴を埋める作業を生きている間ずっと続けなければいけないと思うとぞっとする。ぞっとするのでなるべく見ないようにしている。たまに見えるけど。

 怠惰な人間なのでいつの間にかあれが勝手に埋まっていることを夢想しているが多分無理なんだと思う。それに、あの穴を直視する場面が今後何回か来るとは思うがそれに十回も耐えられるとは思えない。

 ところで、インフラ整備を担当していた責任者が水道管を爆破しようとしていたが、多分そいつは、というか私は、いつだって水道管を爆破したいんだと思う。

(話が抽象的になってきたので一度修正すると、ここでいう水道管とは瑕疵の少ない人生のことを指し、インフラ整備の責任者とは恐らく理性のことを指します)。

 私は暴力的な人間だということをかなり前からなんとなくわかっていたが、ここのところその輪郭がちゃんと見えている。見たくないがこれは直視すべきものだろう。

 一歩どころか数ミリずれていれば書類を机にたたきつけたりドアを思いっきり閉めて不機嫌を示すような人になっていたと思う。今からでも普通にそうなる素質がある。穴を埋めるよりもまず先にこの素質から遠ざかりたい。蓋をしている間はこの素質から遠ざかったつもりでいたけど、本当に『つもり』でしかなかった。この言葉の選択は明らかに間違っていたなと思うことが何回か(何回も)ある。多分自分にはモラハラする素質がめちゃめちゃある。やめてくれ。モンスターになりたくないんだ。

 穴を見つめている間、ずっと水道管を爆破することを考えていた。自分の町の水道管を爆破しようと困るのは自分だけだが私は明らかに、つながっている隣町へ供給される水を自分の町の水道管を爆破することで断ち切ろうとしていた。これは暴力だ。

 私が穴をどうにもしきれず穴の中に落ちて死ぬ分には、それはただの自滅なのでどうでもいいが、暴力はどうでもよくない。穴に落ちて死ぬ確率はそんなに高くないが、暴力をして結果的に自分が穴に落ちる可能性はそれなりにある。穴と暴力はつながっている。インフラ整備の責任者を暴走させないためには結局この体制全部を変える必要があって、穴をどうにかすることにもつながっている。

 とりあえずインフラ整備の責任者がどうにかしてしまわないようにそいつの暮らしを改善させた。具体的にいうと、インフラ整備の責任者つまり私が引っ越した。インフラ整備の責任者の生活改善案はけっこう前から提案されてはいたが町長が後回しにしていた。お前はまだ大丈夫だろう? という気持ちがあった。町長は新しい住宅街を作ることの方を優先させていた。多分インフラ整備の責任者をどうにかさせるほうを優先させるべきだった。水道管の爆破を考えたn回目に、これは本当にダメだと町長はうっすら気づいた。町長も町長でどうにかしていた。町長は、つまり私は馬鹿なんだと思う。

 そういうわけで多少インフラ整備の責任者がおとなしくはなったが、そいつは、つまり私はスイッチの作り方が分からないだけで分かったら即暴力的に、というか暴力そのものをしてしまうんだろうと思う。インフラ整備の責任者は本当はおとなしい人だとか、それは物語的すぎるし、そうではないことがもうわかっている。根っこから暴力的な彼をなだめているだけ。私は運がいいから、そうならなかっただけ。誰もスイッチの作り方を教えないで欲しい。多分、スイッチの作り方を自分で分かっているし、半分くらいまでは作れると思う。町長は、つまり私はインフラ整備の責任者をかなり働かせてしまった。彼はスイッチの作りかたをわかっている。が、知らないふりをしている。暴力を知らない人間はいないから、彼も暴力を最初から知っていた。お前も暴力を振るうことができるんだと、それを教えたのは私だ。暴力はあらがう強さであるけれど、他人に向けるものではないな。それを教えられなかった。

 まだスイッチの作り方を知らないふりをしてくれている。彼を働かせすぎた。

 相変わらず町長はどうかしていて、借りてきた重機を返してしまった。自作の重機でどうにかできると思っていたが意外とそれができなさそうで困っている。具体的にいえば……なんだろう、また借りるのにすごい気力を使いそう。

 勝手に埋まると思っていた落とし穴は勝手に埋まらないらしい。インフラ整備の責任者は生活改善がされたが、「俺はいつでもスイッチを作れる」と思っているらしい。でも知らないふりをしてくれているらしい。

 最初にあげた記事の最後に“好き勝手に歩いてどこにでも行こう”と書いていたが、町長は好き勝手歩きすぎたらしい。どこにでも行くな、穴をどうにかしろよ。また私がどうかしたら一体どうする。